【考察と実践】影響力の武器 第3版 要約まとめ

【考察と実践】影響力の武器 第3版 要約まとめ

今回は社会心理学の知見を現実場面に活用出来るように落とし込んだ「影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか」(ロバート・D・チャルディーニ:著)をまとめます。なぜ私たちは限定品や品薄に弱く、つい頼み事を引き受けてしまうのか。人間の承諾行動の研究について見ていきます。

理由付けと納得感。高価なもの=良い物。コントラストの原理

理由付けと高価なものとコントラストの原理
私たちは理由付けに弱い生き物。順番に割り込む時などもっともらしい理由を付け加えるだけで許される確率が一気に上がるのだとか。考えてみると、理由を言われると何となく納得してしまうもの。パッと言われた理由の中身は検討せず、理由を言うという行為に納得感を得ているのだと考えられます。

私たちは高価なもの=良い物だとの思い込みを強く持っています。実際は粗悪品でも高価であると良い物であると確信したがる傾向を持ちます。高いのなら良い物に違いない、という感情は多くの人が持っているのではないでしょうか。

コントラストの原理は最初に見せる要素を大きくすることで後で出した要素が小さく見える人間心理のこと。例えば、
・高価な商品を先に見せることで、後で見せた普通の商品がとても安く見える。
・悪い知らせを先に伝える事で、その直後に来る良い知らせがより良い知らせとして響く。
・とてもネガティブな情報を大げさに伝えた後、実は嘘!と言って、実際はこれくらいしか損しかしていないよ、と伝えると一気にそれが小さく見える。
・素行が悪い不良が良いことをすると、その良いことが一層際立って見える。

返報性の原理

返報性の原理
返報性の原理とは、何か恩を受けた相手にお返しをしたくなる人間の本能のようなものです。助けて貰ったという分かりやすい事実や、印象に強く残るような恩恵を受けると、その人のために何かしなくてはと思うあの感情のことです。その人が好きかどうか好意や嫌悪に関わらずに働く原理です。

交渉の場面では相手が譲歩をしたのなら、今度は私が、と思うことがあります。この「今度は私」が返報性の原理です。また、コンビニでトイレを貸して貰ったら、特に買う物はないけど何か商品を買ってあげるか、という気持ちになるでしょう。

■悪用される場合
返報性の原理は悪用される場合も多くあり…
・恩を着せた相手に恩知らずと相手を責める事で相手の罪悪感に働きかける。
・セールスや宗教の勧誘など、まずは無料で試供品やペンをくれることがある。軽いものだが、受け取った人は心のどこかに返報性の原理は働く。

■ドアインザフェイス法
返報性の原理を活かした交渉術がドア・イン・ザ・フェイス法として知られています。これは、初めに敢えて大きな要求を提示し、相手の顔色をうかがいながら本命の小さな要求を提示する方法です。受け取る側としては、「相手が大きな要求を譲歩して小さな要求にするのなら、こちらも…」となり、承諾を返報性の原理で引き出されます。

一貫性の原理とコミットメント(既成事実)

一貫性の原理とコミットメント(既成事実)
一貫性の原理とコミットメント(既成事実)一度意志決定をしたり、自分の立場を決めるとそれに一貫性を持たせようとする傾向のことです。人は自分の決定に沿ったような行動や選択を取る傾向にあります。

例えばお願い事の文脈では一旦頼まれごとを承諾した事実があると、次の依頼は断りにくくなります。言い換えれば「自分はこの人の依頼をさっき承諾した」という最初の行動の既成事実を一貫したい…!という心理が働きます。

なぜこうなるのかと言うと、一貫性の原理に従えばそれだけ考えなくて済むので楽だからです。多くの人が無意識に一貫性の原理に従っています。ずっと同じ事をしていれば楽ですよね。今の職場が嫌だと愚痴っても転職活動をしなかったり、痩せてモテたいと願っているのにダイエットの具体的な行動を始めなかったり…。一貫性の原理については年齢を重ねるにつれて大きくなることが示されています。

■パブリックコミットメント 周囲の人達から一貫した行動を取っていると思われたい
一貫性の原理にはパブリックコミットメントも影響していると言われています。パブリックコミットメントとは周囲の人からも一貫していると思われたいことで、周囲の人達からの目や社会的な圧力と関係しています。例えば夏までにダイエットを成功させたいのであれば、半年ぐらい前から自分の身近な周囲の人に宣言することで、何か食べ物の誘惑に直面しても「あっ自分は周りに夏までに痩せるって公言したんだっけ…」とパブリックコミットメントが働いて誘惑に負けずに目的を達成しやすくなります。トレーニングブログをつけたりSNSを活用することもパブリックコミットメントですね。

■通過儀礼のコミットメントと正当化
就活や通過儀礼といったものは、それを乗り越えた人同士の団結力を高めますが、結果としてそのことを正当化してしまう傾向があります。理不尽で暴力的な通過儀礼を乗り越えた人は、後で振り返って「その辛い通過儀礼のおかげで成長できた、強くなった」と認識するようになります。当事者としてその儀礼を受けたときは凄く嫌だったのに、時間が経つとそれを正当化(=成長できた)し、私が苦労をしたのだから、あなたも苦労をしろ、というような思考に陥ることがあります。自分が関わり続けていることを正当化することは認知的不協和とも関係があるのでは?と私は考えています。その結果として改善すべき儀式や慣行がそのまま存続する事になります。

(*認知的不協和とは自分の行動と考えが矛盾するのを嫌う人の心理傾向のこと。どちらかに合わせる形で行動と態度を変えていく。)

■フットインザドア法
この一貫性の原則を活かしたのがフット・イン・ザ・ドア法です。これは小さなお願いから段階的に大きなお願いを承諾させていく手法のことで、段階的承諾法として知られています。最初の承諾した事実(コミットメント)があると相手がその後の依頼も承諾してくれる可能性が大きく高まる心理傾向を活かしたもの。スマホゲームの課金でも何でもそうですが、最初の1ステップの敷居をどれだけ下げるのかが重要です(一度コミットメントさせてしまえば後は楽)。セールスの現場で使われています。

一貫性の原理が好まれるのはブログでも同じだと思います。例えば扱うジャンルを絞った方が一貫性あるため読者にとって分かりやすく負担は少ない…とは思います。当ブログは雑記ブログなのでゲームやら心理学やらアートやら色々扱っているため読者の皆さんにはちょっと複雑で負担だろうとは思いますが、好きな事じゃないと続かないという難しさ。

社会的証明 多くの人がしている事が正しいとされる風潮

社会的証明
テレビ番組の笑い声の効果音、セールス番組の観客のどよめき・歓声の効果音はとてもよく使われています。社会的証明とは、特定の状況で大勢の人がしている行動が正しいと思い込む心理傾向のことです。大勢の人が笑っているのであればこのネタは面白いものであると認知し、商品の新機能に歓声が上がればこの商品は革新的な商品だと思い込みます。多くの人がその行動を選択しているのは社会的にその行動は正しいと証明されていると私たちは捉えます。

例えば大都市などで困っている人がいても、周囲にたくさんの人が行き来している中では助けを得る事は難しいでしょう。その場に大勢の人がいるほど責任は分散し、助けないことが自分にとって正しい事と感じてしまう傾向があります。みんながその人を助けていないので、それに悪い意味で同調しているのです。
参考→考えているつもり「状況」に流されまくる人達の心理学 要約&まとめ,感想

また、ウェルテル効果といって社会的に目立つ人が何か行動するとそれに追随する人が出てきます。著名人が自殺をするとそれに従って自殺者数が増えるという調査結果もあります。
参考→ウェルテル効果とネガティブなニュースの心理影響について

社会的証明の影響は自分に確信を持てないときに特に顕著になります。みんながやっているから安心だ、これが良い選択だ、と群れの心理が働きます。

社会的証明は何も悪い側面ばかりでは無く、新しく行ったお店でどのメニューが良いのか分からないからとりあえず売れ筋を注文するのは理にかなっていますし、誰もが知る上場企業はやりがいはともかく保障の面ではしっかり制度が作られているのも事実です。私はジェンダーも同様だと思っていて男の子は青色、女の子はピンク色、男の子っぽい遊びや女の子っぽい遊びは誰がどう決めたのかを考えてみると、大勢の人がそうしているから、これまでもそうだったからに行き当たります。最初に決めたのは誰だったのだろう?

好意の利用 外見的魅力と類似性

好意の利用 外見的魅力と類似性
人は好意を持った対象に対して「はい」と答えやすくなります。友人など好意を持った人だと信用しやすいですし、友達からの影響も受けやすいです。一度信頼した相手からの情報は受け入れ易くなります。

外見のいい人は親切で知的で才能があるとポジティブに見られやすいことが研究で明らかになっています。器量が良ければ得をするのは紛れもない事実。

外見的魅力が無ければ類似性の原理を知っておきましょう。私たちは自分と近い人を好む傾向にあります。自分と同じ服装をした人からの頼み事を聞き入れやすくなるという実験結果も。自分と似通った経歴や、趣味も同様です。人は本能的に自分に馴染みのある顔や要素に親しみを持つのです。私の場合は高校を中退した後に社会で大きく活躍している人を見るとひいき目で見てしまいますね。

結びつきとイメージ 正しい情報だろうと「悪い知らせを伝える人」は疎まれる

伝える情報と伝える人は結びつく
本人と関係あるかどうかに関わらず、「悪い知らせを伝える人」は疎まれる傾向にあります。海外では気象予報士が嵐の予報を伝えた結果農家に憎まれ暴力を振るわれたケースがあるようです。私たちは関係が無いのにその「情報」と「情報を伝える人」を結び付けて考えます。中間管理職がただ単に上の命令に従っているに過ぎないのに部下に憎まれることがあるのもこの「情報」と「情報の伝える人」の連結が起きているからでしょう。

スポーツの場面で応援していたチームが勝つと「私たちが勝利した!」、負けると「彼らは負けた」というサポーター達がいます。チームが勝てば自分と結び付け、負ければ距離をおく。これは不都合な要素と自分を切り離したい人間の本能だと考えられます。

権威と服従の心理 従うのはやっぱり楽

権威と服従の心理
心理学の教科書に必ず載っているミルグラムの監獄実験では、多くの善良な一般人が白衣を着た教授の命令に従って、致死量を超える電流を流しました(実際は電流は流れておらずサクラを使った)。これは多くの人が自分の経験や思考よりも権力を持つ人の命令に従う事を示しています。要するに思考停止して権威に従うほうが人にとっては楽なのです。専門家の意見は多くの広告やCMで使われていますが、果たして本当なのか?と疑うことが重要でしょう。特に健康食品はエビデンスが緩いものが多いので気をつけなくてはいけませんね。人は権威性をもつシンボルや肩書きに弱いのです。

参考:エビデンスへの意識を高める本→【まとめと要約】「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」要点とレビュー 心理臨床分野に限らずエビデンス(科学根拠)についての意識や態度を高めてくれる本

希少性のちから

希少性の力
これは数が少ないものほど重要な価値があると思い込む傾向のことです。ダニエル・カーネマンらのプロスペクト理論でも示されていますが、人は失う事にとても敏感です(損失回避の原則)。手に入りにくくなるとそれだけ貴重なものに思えきますし、手に入らなければならないほどより一層欲しくなってしまうのが人間。何かを禁じられれば禁じられるほど反動で欲望が大きくなるのも同様です(ロミオとジュリエットの恋愛のように)。希少なものは良い物だから、他の人もすぐに買ってしまうに違いない、と思い込んで自分を見失ってしまい高額商品に飛びついてしまうこともあるでしょう。

まとめ・書評

本書全体を通して感じたのは人は楽をしたい生き物なんだなぁということ。自分で考えたくはないし、なるべくなら何も考えずに何かの流れに任せていたい。変化も嫌だし、ずっと同じ事を続けていたい、楽をしたい…。こうした研究で示された事実を見ていると、普段置かれている環境や接している情報からどれだけの影響を受けているのだろうか、と思ってしまいます。本書全体としては具体例も豊富で読みやすく時折差し込まれる風刺画も面白かったです。知識をインフォグラフィックにするのも面白そうだな、と思いました。

社会心理学に興味がある人はぜひ手に取って読んでみてください。日常生活で使える知識が満載の本です。

■日本語版「影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか」 ロバート・B・チャルディーニ:著,社会行動研究会:翻訳,誠信書房 第三版 (2014/7/10)

■原著「Influence: Science and Practice」 Robert B. Cialdini 2008/7/29

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