【書評と要約】幸せな未来は「ゲーム」が創る ジェイン・マクゴニガル ゲームで得たものを現実世界にどう活かすか ゲームデザインとポジティブ心理学からの知見 人が本能的に求める持続的な幸福とは何かを知る

幸せな未来はゲームが創る

ゲーム好きでも一度は「ゲームをしている時間は無駄では無いのか?」と考えたことはあると思います。長時間ゲームに没頭してあっと言う間に休日が終わった時の罪悪感、虚無感は大きいもの。それはゲームをしている時間を無駄だと判断してしまう私たちの捉え方から来ているのですが、ここで見方を変えてゲームプレイが無駄では無く、現実世界をより良くするための経験を積んでいるものだったらどうでしょうか。

ゲームデザイナーのジェイン・マクゴニガルが書いた本書「幸せな未来は「ゲーム」が創る」は無駄なもの、役に立たないただの暇つぶしの娯楽として低く見られがちなゲームをポジティブ心理学の知見とゲームデザインの観点からより広く現実問題の解決に応用出来る事を示した本です。本書を読むことでゲームの見方が変わり、ゲームから得られる体験もより深いものとすることが出来ます。人の幸福とは何か?に興味がある人、そしてゲーミフィケーションと呼ばれるゲーム内の要素を現実に応用して日常生活の向上に活かすことに興味がある人はぜひ読んでみてください。

なぜ人はゲームに夢中になるのか?

そもそもなぜ人はゲームに熱中し、没頭するのでしょうか?ゲームの中で人は悪の存在と戦ったり、困難な事件を解明したり、財宝を求めて探検したり、困っている人を助けたりします。もし現実世界でやるなら大変な重労働となる活動をゲームの世界の中では主体的に、積極的に行うのです。なぜそのようなめんどくさい仕事を人はゲームの中では夢中になって粘り強く取り組むのでしょうか?

人はゲームから現実世界では得にくい「生きた実感」という感情報酬を得ている。

人はゲームから現実世界では得にくい生きた実感を得ている。

なぜ人はゲームに夢中になるのか?それはゲームは現実世界では得難い「生きた実感」を得られるからです。何かに集中し、絶え間なく打ち込んでいる感覚、困難な仕事をやり遂げたあとの達成感や協働によるコミュニティへの貢献、他者からの称賛が生きた実感の例としてあげられ、ミハイチクセントミハイのいうフロー体験をゲームは提供します。

現実世界はひどく退屈でつまらないもの。日々の業務をこなしても感謝や達成のフィードバックを貰えることは少なく、感情を揺り動かすかのような体験や使命感を抱いて目標達成に邁進していく機会は少ないといえます。

本能的に人はワクワクするような充実感のある仕事を追い求めていて、ゲームをすることでそれが叶うのです。ゲームをしない人から見るとゲームは怠け者がするものだという偏見がありますが、むしろゲーマーはハードワーカーです。人は生産的に、気持ち良く働きたいからこそゲームをプレイするのです。充実感のある労働によって人は幸福を感じ、ポジティブで前向きな感情を取り戻すことが出来ます。それは、退屈で平凡なつまらない日常生活と向き合う時の活力源として機能します。

本書では「ゲームこそが人類が真に求めている欲求を満たす、未来をより良くするツールであり、ゲームに取り組むときの態度や考え方を不完全な現実世界に適用して、日常生活をゲームの世界のように没頭できるものとしてより良く生きて行こう」というアイデアを力強く、とても前向きに語っています。

世界的に見てもゲーム人口は拡大の一途をたどっていて、人類がどうゲームと付き合っていくかは重要なテーマとなりつつあります。

ゲームから得られる「生きた実感」という感情報酬は人を活気づける。

ゲームをプレイする人がゲームの世界でどれだけハードな仕事でも夢中になってやり遂げられるのは、ゲームをすることでやりがいや達成感、自分の強みを活かしている感覚、成長している実感といった感情報酬を得ているからです。

こうした感情は現実世界に不足しているものであり、ゲームは現実生活で失われがちな生き生きとした活力やポジティブで前向きな感情を取り戻すのに最適なツールとして機能します。良質なゲームプレイはやりがいのある仕事を人に提供し、人を活気づけるのです。

ゲームを通して得られたポジティブで前向きな感情は現実にも波及していきます。現実世界では誰しもが孤独で憂鬱になる時はあるけれども、ゲームを通してそれらの停滞した感情を打破することができます。かくいう私も10代の頃はゲームがあったからこそ現実世界を乗り越えられたと言っても過言ではないぐらいです。

参考外部リンク→「『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は、僕を鬱病から救った」自殺すら考えたゲーマーが回復の物語を語る(automaton)

ゲーム固有の特徴を知る。何がゲームをゲームたらしめているのか?

ゲーム固有の要素
ここで一体何がゲームをゲームたらしめているのか、ゲーム固有の特徴を見ていきます。

・適切なゴール(目標)がある
ゲームには適切な難易度のゴールが設定されています。超えられそうで超えられない難易度の目標は人を夢中に目の前の課題に取り組ませます。コツコツ努力し、練習することで乗り越えることが出来る適度な難易度が人を夢中にさせ、失敗しても諦めない態度で何度も挑戦に向かわせます。

・ルールがある
ゲームにはルールがあり、決まり事や出来ない事などが設定されています。制約があることでプレイヤーは試行錯誤をしたり、課題に向けての独創的な解決法を考える事になります。

・フィードバックシステム
ゲームの世界ではプレイヤーがどこまでゴールに近づいているのか、どれほどの経験値が得られているのか、今の自分がどの程度のレベルにいるのかを明確に示します。自分が努力した結果、どこまで前に進んでいるのかが一目で分かります。行動の成果を実感出来ることは人のモチベーションに大きなやりがいと達成感をもたらします。巷でいうゲームフィケーションはこのフィードバックシステムを活かした事例が多いですね。

・自発的な参加
ゲームにおいて、プレイヤー自らが主体的に参加することが重要です。自らゲーム世界のルールを理解し、目標へ向けて行動を開始すること、その逆に脱退する自由もある事がゲームの特徴です。自発的に動いている感覚が無いと、ゲームはただの労働になってしまいます。ソーシャルゲームやオンラインゲームでの日課やログインボーナスは自主的にやりたいからやるのであって、それが強制されていると感じてしまうことはストレスにしかならず、その人にとってそのゲームは卒業の段階だと言えます。

見方を変えれば、どんなに困難な仕事や目標でも自主的に参加したい、攻略したいと思わせる事ができるのがゲームが持つ他にはない特徴です。

良質なゲームから「つまらない現実」の攻略法を学ぶ。

これらのことを踏まえると、良質なゲームとは適切な目標と難易度設定があり、頑張れば乗り越える事が出来るもので、自分から挑戦したくなるような魅力(報酬やフィードバックなど)を兼ね備えているものです。

一方で現実は単調で同じ作業の繰り返しであり、人からやらされるつまらない仕事で埋まり、疲弊の割には報酬(フィードバック)も期待できないものである事が多く、いわば不完全なゲームと見なすことが出来ます。今ある現実の仕組みを良質なゲームのように変えていく事が出来ればより幸福になれるのではないか、と本書は指摘します。

抑圧的な現実をどう活力に満ちてワクワクとしたステージに変えるか。人の幸福に関する研究とゲーム研究、ポジティブ心理学の結びつきはとても深いのです。

ゲームの特徴を現実に活かしてみる。

ゲーミフィケーションの考察
ここで私なりに考えたゲームの特徴を現実の生活へ応用してみることについてまとめてみたいと思います。

目標では、適切な難易度の目標を設定することが重要だと言えます。まず今の実力で手が届きそうな課題を設定して、実際に取り組んでみること。理想が高いということは、達成したい目標設定が高すぎるということ。千里の道も一歩から、細分化して自分が攻略できそうなレベルまで目標を落とし込んでいきましょう。

ルールについては、例えばダイエットで成果を上げたいのであれば「通勤通学でエスカレーターを使わずに全力で階段を駆け上る」といったルールを自分に課したり、睡眠不足で悩んでいるのなら「寝る前はスマフォやパソコンを封印する」といった決まりごとを自分に課したりします。もしくは生産性を高めるために「午前中にこのタスクは終わらせよう」と時限という制約を設けることで自分を追い込んで試行錯誤してみます。

フィードバックシステムについては、自分の努力を見える化します。Googleスプレッドシートで日課の達成や努力を記録したり、カレンダーに目標を達成した日を塗りつぶしたり、これまで出来なかったのに出来るようになった事をリスト化します。自分にとって誇れる方法でご褒美を設けるのも良いでしょう。何か努力(行動)をしたら、その前に進んでいる感覚をしっかりと自分に分からせることが重要です。

自発的な参加は、今自分がしている行動は誰のためにやっているのか?を考えてみます。自分の意志でやろうとしているのか?それとも誰か他者のために嫌々やっていないか?人からやらされていないか?自分でやらなくてはいけないとただ思い込んでいるだけでは無いのか?を考えてみます。自分の本当に大切な事は自分で判断するしか無いので、内省を深めて自分が今本当にしたい、やりたいと思う行動をリスト化(可視化)して見ましょう。

もちろんゲームのやり過ぎは不健全。「ゲーマーの後悔」とは。フローは幸福の一部でしかない。フローも多すぎると燃え尽きる。

ここまでゲームについてポジティブな側面を見ていきましたが、もちろんやりすぎによる弊害も指摘されています。「ゲーマーの後悔」は、あまりにも多くの時間をゲームプレイに当ててしまったことで、そのゲームをクリアしてしまったときやゲームサービスが終了したときにものすごく時間を無駄にしてしまったのでは無いのか?と後悔する現象のことです。

「ゲームは楽しかったけれど、ゲームをプレイした時間をもっと生産的な別の行動をするべきだったのでは無いのか?」だったり、「クリアした時の達成感と同時にどこかむなしく時間を無駄にした感覚がある」、「ゲームプレイに費やした時間を使って他に出来たことがあったのでは?」というゲーマーなら誰もが抱えたことがあるジレンマ。このジレンマはゲームが与えてくれるフロー状態の多過ぎによる幸福の燃え尽きから来ています。

フローはあくまで幸福の一部でしかありません。フロー状態も多すぎると燃え尽きてしまい、無気力になります。フローという状態は強烈な没入体験であるがために、肉体的精神的なエネルギーを使い果たしてしまいます。私たちはずっとフローでいられるようには出来ておらず、何度も幸福の燃え尽きが起こると、どっと疲れて無気力になってしまいます。

ゲームから得られるポジティブな感情や教訓は現実にも活かせるものの、日常生活とのバランスが取れない程依存するまでやりこんでしまうと害になります。ゲームと同時並行して現実のステージもより面白く出来ないか取り組んでみるのが重要です。

ここでキーとなるのが「継続的な感情報酬(持続的な幸福感)」を日常生活に組み込むこと。一時的な没頭状態のフローに依存するのでは無く、より継続的な幸福を得るためには人の幸福と内面的報酬についての理解を深めていく必要があります。

継続的な感情報酬について。幸福とは何か?ポジティブ心理学の知見から。

ゲームは幸福の元となる体験を提供してくれるが、やりすぎはNG
そもそも幸福とは何か?」について。幸福に関する様々な理論がポジティブ心理学から提唱されています。明らかになっている重要な知見は以下のものです。

「快楽の順応」外発的な報酬を求めると不幸になる。:他者がうらやむような職業や会社で働いていることの名誉だったり、お金だったり、物だったり、消費だったり…自分の幸福を自身の内面では無く外部に求めると人は不幸になります。理由は人は「快楽の順応」を起こすからで、満ち足りた感情が長く続くことはなく、常に「今よりももっと」を求めてしまいます。外部基準で自分の幸福を決めるといつまでたっても満足することが無く、常に不足している感覚になり、卑屈になったり不幸を感じやすくなります。

「内発的報酬と自己目的性」は内面からの持続的な幸福をもたらす。:外部からの見返りや賞賛を求めず、単に自分がやりたいことに没頭して何かを生み出したり達成したりすることに対しての幸福のことです。自分の強みを活かして社会関係を構築をしたり、長期的な努力を必要とする困難な課題と向き合う時に得られる幸福はとても長続きします

この「内発的報酬と自己目的性」が「持続的な感情報酬(持続的な幸福感)」を日常生活に組み込むためのキーとなります。

人の幸福は「内発的報酬」による。持続的な感情報酬(幸福感)を得られるようにバランス良くゲームと付き合い、ゲームの考え方を活かす。

持続的な感情報酬(持続的な幸福感)
そしてポジティブ心理学の内発的報酬に関する知見から、人は以下の特徴を持つ活動に持続的な感情報酬(持続的な幸福感)を感じることが分かっています。

■内発的報酬が多い=持続的な幸福に繋がる行動の特徴
1.私たちが満足出来る仕事についているか、レベルの高い活動をしているか、努力の結果が見えているか。
2.成功への希望を抱けているか、成功体験を期待できるか。
3.社会的な繋がりを得られているか、他者や社会の組織との関係を構築できているか。
4.自分自身の意味づけや、大自然や宇宙に接したときに感じられる畏怖の感情(大きな流れの中にある一つの存在として自分を見る感覚)を感じ、それに貢献できていると感じているか。

これらの特徴を持つ経験や活動は人の幸福の土台となることが明らかにされており、ゲームが持つ特徴と人が幸福になる体験は非常に親和性が高いことが分かります。「持続的な感情報酬(幸福)」を得るためには、幸福の燃え尽きを起こしてしまう一時的なフローに偏ったゲームの付き合い方をするのでは無く、上記の特徴をバランス良く持てるようにしましょう。

ゲームとは本質的に自己目的なもの。誰からも強制されずに自分で没頭して取り組むものです。やる気を高め、やりがいを感じられる活動をゲームは提供します。世界で多くの人が夢中になってしまうのはこの本質的な幸福の体験をゲームが提供してくれるからです。

ゲームは決して現実への逃避では無く、むしろ日常生活の中で幸福になりたいという人々の欲望を満たしてくれるものです。何事もやり過ぎは毒です。せっかくゲームという幸せの体験をパッケージとして提供してくれるツールが身近にあるのであれば、私たちはゲームから現実生活をやる気を刺激するような、やりがいのあるものと変化させていく方法を学ぶべきなのではないでしょうか。

その他まとめ、気づきと発見

ゲームのメリットを活かしていこう
・私たちは生産性のある仕事を追い求めている。自分の強みを活かしたやる気と達成感を満たしてくれる仕事を欲している。プレイ中の行動の本質を見ると、ゲーマーは怠け者では無くヘビーワーカー。
・ゲームは人類が求める幸福の条件を満たした体験を提供してくれる。
・ゲームから得られるものはポジティブで前向きな感情報酬であり、それは退屈で抑うつとした日常に活力をもたらす。
・ゲームと心理学の相性は非常に高い。特に人類の幸福を考えるポジティブ心理学の知見が生かされている。
・良いゲームの要素として、適切な難易度、ルール(制約)、フィードバック、自主性がある。
・適切な難易度とは成功への希望と期待のこと。努力して行動することでやればできると思わせられるかどうか。
・現実では多くの人が失敗を恐れているが、ゲームの中では失敗は恐れない。むしろ失敗が成長であり、ゲームをより面白くするためのスパイスとして機能している。簡単なゲームはすぐに飽きるが、難しいゲームは何度も失敗してやり直して乗り越えたいと人は思う。乗り越える過程で達成感が得られる。
・「ゲームをプレイする人は孤独に引きこもって黙々とプレイしている」という印象が強いが、世界的にはオンライン上で数十万~数百万の人が協力して一つの目的を達成したりするなど協働的で、それぞれ自分の強みを活かしてコミュニティへの貢献をしている。ゲームは使い方によっては社会参加の強力なツールとなる。

■その他メモ
・Xboxが普及している北米ではHALO(ヘイロー)シリーズの主人公マスターチーフはマリオと匹敵するぐらいの知名度で、ゲーマーと自称するなら知っておかなければならない存在らしい。
・マイクロソフトの研究開発部にあるゲームテスト部署はまるで心理学研究所のようだという。

まとめ 書評

満足度は95%。日本では中毒や依存症、ゲーム脳などとかくネガティブなイメージで語られがちなゲームを、ポジティブ心理学やゲームデザインの知見から、いかに人類の幸福や現実生活にも役立つかを理論と根拠で説明した良著。

普段なんとなく接しているゲームの見方が変わり、ゲームから得られる気づきの経験値が1.5倍になったかのような感じがします。どういう意図でゲームがデザインされ、どういう思想で何をプレイヤーにもたらそうとしているのかの洞察が深まったかのような…、本書を読む前とあとでゲームとの付き合い方がレベルアップしたかのような読後感。

本書はかなりのボリュームで、個人的には前半が本書の白眉であり、幸福とは何か?なぜ人はゲームに夢中になるのか?のエッセンスが語られています。ゲームプレイ中の行動の本質を見ると、現実に置き換えたら非常に困難で過酷な重労働をしています。それなのに私たちは何度も夢中になってその困難な課題を解決するべくゲームの世界に没頭して行きます。ここから見えてくるのが現実には何が不足し、ゲームには何があるから人々を惹き付けるのかの洞察です。

本書ではポジティブ心理学の知見から人類が求める幸福を明確にし、人を幸福にする良いゲームの特徴を定義した上で、いかにそこから得られた知見を現実世界へと応用して人生全体をより良く生きるのかについてまとめられています。

本書の中盤から「代替現実ゲーム」のより仔細が語られており、ゲームから得られる知見でどのように様々な現実上の課題が解決されていくのかが述べられています。本書の大部分はこのゲームの知見を生かした「代替現実ゲーム」の個別具体例で、この部分がちょっとボリュームが多すぎると感じましたが、「ゲームの知見を現実に生かす」というこれまでに在りそうで無かったアイデアなので、その分力を入れて具体例を提示しようとしたのかもしれません。

感想としては、ただひたすらにこういう本が出版されて嬉しいと思いました。ゲームのマイナス面に焦点を当てるのは簡単ですが、プラスの側面に焦点をあて、理論立てて説明したものはなかなかありません。なぜ人がゲームに夢中になるのかの本質が見え、ゲームそのものの見方を捉え直す契機となります。

人が本質的に求める幸福について知りたい人、なぜゲームがそれに効果をもたらすのかについて知りたい人は必読です。

■日本語版「幸せな未来は「ゲーム」が創る」

■原著「Reality is Broken: Why Games Make Us Better and How They Can Change the World」

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参考リンク

「わたし」を肯定する研究。- ほぼ日刊イトイ新聞