〈インターネット〉の次に来るもの まとめ要約レビュー

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著述家であり、WIRED雑誌を創刊したケヴィン・ケリーさんの「〈インターネット〉の次に来るもの」を読了しました。2016年の本ですが、つい昨年話題になったビットコインや人工知能、自動運転車などのブームを予測してあり、これから先のテクノロジーの潮流はどこへ向かうのか、私たちの進歩の先の未来はどのような世界が待っているのかについて興味深い視点を与えてくれる良著でした。私たちが生きる現在はテクノロジーの進化による人類の歴史における変換点であることを確信させてくれる本です。

「〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則」/原著「THE INEVITABLE:understanding the 12 technological forces that will shape our future」
ケヴィン・ケリー著(Kevin Kelly)
服部桂[訳]
NHK出版 2016/7/25

12の不可避的な進化

本書の英文タイトルは「THE INEVITABLE」。これは不可避という意味で、私たち人類がこれから先直面する避けられない進歩流れのことを示しています。この避けられない流れというのはインターネットを始めとするテクノロジーの進化のことで、本書ではこの避けられない進化の流れを「Becoming」「Cognifying」「Flowing」「Screening」「Accessing」「Sharing」「Filtering」「Remixing」「Interacting」「Tracking」「Questioning」「Begining」の12の要素に分けて、それらが相互作用していくことで人類がこれから迎える時代の変化を予測しています。

以下、一つずつそれぞれの内容を見ていきましょう。

Becoming ビカミング


ビカミングとは「なりつつある」ということ。私たちはこれからますます「始まりも終わりも無く常に変化のただ中に存在している」状態で生活するようになります。私たちの身の回りのものは進化を続け、例えば最先端のスマートフォンを買ったとしても、わずか1年ほどで型落ちとなります。ソフトウェアはアップデートを要求し、私たちの身の回りは常に進化し続けるプロダクトに囲まれていています。これからの私たちはますます終わることの無いアップデートとメンテナンスを要求されるようになります。自分ではこのアップデートへの流れを止めることはできません。

Cognifying コグニファイング


コグニファイングとは人工知能が発達した未来におけるロボット(工業製品)と私たちの社会のあり方のことです。人工知能はますます進化し、自分で学ぶAI、AI同士で学ぶAIへと進化を加速させてきました。こうした教師不要のAIは自分でルールを学んで行くため、あらゆる物事に対応可能になりました。ルールを教え込む人間が不在になったことでAIが自律した存在となり、大きく可能性を広げました。

学習を積んだAIは現実社会のありとあらゆる状況を認識し、予測し、問題解決を可能とさせます。そうした小さなAIは身の回りの製品に宿るようになり、人々の生活をより豊かにして行きます。グーグル創業者のラリー・ペイジは「検索エンジン」を作っているのでは無く、「AIを作っている」とのこと。将来的にAIが大きな産業となっていきます

クラウドコンピューティングやビッグデータによりアルゴリズムもますます進化していきます。自分で思考する小さなロボット製品が身の回りに増え、これまで人が行ってきた仕事がどんどん機械に切り替わっていきます。しかし、未来には仕事がロボットによって奪われていく以上に、これまで考えられなかった種類の仕事がたくさん増えていきます。ロボット全盛の未来において、人が担当する仕事は「ロボットにやらせる仕事を考える仕事」になります。

Flowing フローイング


デジタル化はコピーとは切って切り離せません。容易に複製され、広まっていく社会クラウド技術や通信技術の発達によりストリーミングでの動画視聴、電子書籍などでリアルタイムで即時的に何もかもが完結するようになった社会がフローイングです

この社会では即時性に価値が置かれています。注文すれば直ぐに商品やサービスが受けられる社会。モノとしての所有の価値は希薄化し、アクセス権にますます価値が置かれるようになります。それぞれの製品は一人一人の好みにパーソナライズされるようになり、商品は容易にコピーされるためオリジナルである事やブランドといった権威、信頼に価値が置かれるようになります。こうした社会では実体化されたものに価値が置かれます。ライブイベントやトークショーなど身体性を実感出来る物に価値が置かれます(体験が価値を持つ)。

誰もが自分の作品を発表し、シェアしていく社会。固定化された製品は無くなり、いつでも修正され、変更、アップデートされるものになります。値段も限りなく無料に近づき、誰もが製品を手に取りやすくなっていきます。知識(ソフト)が物(ハード)の価値を超えていきます

多くの情報や大量のコンテンツが流れ、作品が埋もれるようになります。いかに発見されてもらうか(発見可能性)が作品やクリエイターにとって重要な価値となります。多くの人にたくさんコピーされ、共有され、解釈を付けられる製品、いわば消費者に製品を再生産させる魅力を持つ製品が価値を持ち、生きながらえるようになります。

Screening スクリーニング


ありとあらゆる物がスクリーン、小型のモニターに映し出される世界になります。今の私たちはどの時代の人達よりも文字を読んでいます。石版に刻まれていた文字はスマートフォンやタブレットで誰もが持ち運べるようになりました。それに比例して、情報量も毎年膨大な量が生産されています。ありとあらゆる情報は持ち運べるモニターでいつでもどこでも映し出され、検索されるものになっていく。一方で、私たちは常にモニターやスクリーンから離れない世界になっていきます。

Accessing アクセシング

Adobe製品は買い切りモデルからアクセス権を売るサブスクリプションモデルに移行した。

ありとあらゆる価値を持つものが非物質的になっていき、所有する価値がなくなっていく社会ではアクセス権に価値が置かれます。物質からサービスに重きが置かれ、物質に縛られることなく流動的になります。所有では無くアクセスする。体験し、接することに価値が置かれるようになります。
 
私が実感したのがAdobe製品。かつて無理をして数十万の貯金を出してAdobe製品を買っていた時期もありました。当時は物としてのAdobe製品を所有する事に価値がありました。値段も相当高価。AdobeはCS6を最後に、買い切りモデルからCCというサブスクリプションモデルの販売になりました。サブスクリプションモデルでは最初の値段が安いから多くの人に広まり、常に最新の商品が提供されます。顧客と企業は人生の伴侶であるかのような深い結びつきをするようになります。

Sharing シェアリング


なんでもシェアされる時代はこれからも続いていきます。美味しい料理や観光スポット、楽しかった体験はSNSにより広く拡散されます。集団にシェアされる商品が価値をもつようになります。また、開発の現場ではオープンソースにより、広く全ての人に開発コードを公開することで、世界規模での開発改良が続けられています。SNSでのつながりを持つ人、影響力を持つインフルエンサーという人達が力を持つようになるでしょう。

Filtering フィルタリング


フィルタリングとは、全ての情報が管理され、操作されたものになることです。私たちがこれから迎える時代は、ますます多くの情報と選択肢、製品が提供されるようになります。しかし、時間は有限。人生には全てのコンテンツを消化するには、あまりにも時間が足りません。超潤沢社会では読むべき本、消費すべきゲーム、音楽、エンタメには事欠きません。何かを得たら何かを捨てなければいけません。

自分が何を優先するかが重要となり、私たちは個人の好みに最適化された、パーソナライズされた製品・情報に接するようになります。最も身近なフィルタリングの例はAmazonなどでのお勧めリスト。「あなたにはこの商品がおすすめ」「これを買った人はこの商品も買っています」というアルゴリズムは多大な経済的恩恵を生みました。ネット広告も検索履歴などから個別にフィルタリングされた物が出ています。(もし普段目につくネット広告がアダルト広告ばかりであるならば…つまりそういうことです)

パーソナライズの過程に価値がおかれ、顧客の注意を引く要素が価値を持ちます。FaceBookやGoogleなどの最大手のIT企業の上層部はどうすれば人々がクリックしているのかを常に考えています。

こうしたフィルタリング社会では「食わず嫌いの作品に触れる機会」が減少します。そのためずっと自分と似たような、同じようなものばかりに触れてしまい視野が狭くなってまいます。本来得るものがあるのに「これまでの自分が接してこないから」という理由でフィルタリングされるために、それらに触れられないのは、クリエイティブや新しいアイデアを生み出す面で不利になるでしょう。

Remixing リミクシング


誰もが簡単に情報をコピーできる時代では、あらゆるものが混ざり合っていきます。既存の素材を利用して再構成され、再利用されていきます。ありとあらゆるプロダクトが混ざり合っていきます。音楽は録音され、巻き戻し&編集可能な物となりました。映像制作でもかつては大規模な装置や投資が必要だったのが誰もが手に持つスマートフォンで撮影出来る上に、Youtubeというプラットフォームで発表できるようになりました。デジタル化され編集可能になる物が増えていくことで、これまで考えられなかったプロダクト同士の組み合わせが増えて新しい体験や驚きが生まれてきます。

Interactive インタラクティング


より身体と工業製品は結びつくようになります。聴覚や視覚、触覚で操作できる新たな製品が生まれてくるでしょう。拡張現実ARの仕組みを活用したポケモンGoは大ヒットし、PS4や建築の世界でのVR(ヴァーチャルリアリティ)、TeamLABのボーダレスといった展示物などはこのインタラクティブ性を全面に押し出しています。新しいワクワク体験を提供するエンタメ分野の他にも、障害を持つ人達にとって新たな身体となる発明がされていくでしょう。

Tracking トラッキング


全ての物事が測られ、データとして記録されるようになります。古くは日記などが生活の記録として活用されてきましたが、デジタルカメラやスマートフォンの登場で映像や写真で簡単に記録できるようになりました。これからは更に気分、血液、心拍変動、運動量、食事、睡眠などが数値化されたデータとして蓄積されていきます。Amazonでは購入履歴、Googleでは検索履歴をデータとして蓄積しています。これらのデータは個人の病気の判断や、マーケティングなどに使われ、パーソナライズの過程で重要な価値を持つようになります。

Questioning クエスチョニング


かつて不可能だと思われたことが可能になっていく世界。ありとあらゆる物が繋がって調べられる時代では「正しい質問を思い浮かぶ能力」に価値が置かれます。技術面で出来ないといったことは減り、アイデアさえ思い浮かべば実現出来る時代になります。新たな疑問を持つ力が新たなプロダクトを生む力となるのです。

Beginning ビギニング

今はまさに始まっていく時代です。数千年後の人類が今の時代を見たら、まさに今この時が時代の変換点。これまで不可能だと思ったことや、想像もしなかった新たなサービスが生まれ、当たり前のものとなってくるでしょう。今の私たちは変化へのスタート地点に立ったばかりなのです。

総評

読みやすさ ★★★
教養度   ★★★★+
満足度   ★★★★★★+

本文は翻訳本にあるような冗長な箇所もありますが、明るい未来展望を力強く力説する軸が一貫していて読んでいて気持ちいい本でした。

未来を見通すのは難しく、私たちは30年前の人たちが想像出来ない生活をしています。誰がスマートフォンがこんなに普及し、どこに居てもネットワークに繋がり、写真や情報が拡散される社会を想像できたでしょうか。かつては一部の選ばれた人のみがコンテンツを作っていましたが、今は無償の市民クリエイター達が動画やブログといったコンテンツを発信し、誰もがコンテンツを持てる時代となりました。

本書ではWikipediaへの言及も多いです。Wikipediaは私が学生の時は下に見られていましたが、どんどん改良を続け、信頼性も増してきています。Wikipediaは嘘ばかり、と言ってられない品質になってきています

未来の人から見て「今ほど新しいチャンスに拓けた時代は無い」と謳う本書の主張は、今を生きる私たちにとって明るい未来を確信させてくれる励ましではないでしょうか。未来予測の文脈では多くの映画やSF作品に見られるように人が機械に仕事を奪われるといったネガティブな面が注目されたりしますが、仕事が減る以上に多くの新しい種類の仕事が生まれてくる、という視点は新鮮でした。インターネットと未来予測について興味がある人は是非読んでみてください。後悔はしません!

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