【まとめと要約】「やれば出来る」の研究「マインドセット MINDSET」キャロル・S・ドゥエック(著) レビュー

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今回は人の心構えが将来的な成長やモチベーションに与える影響を考察したキャロル・ドゥエックの「MINDSET マインドセット」をまとめ&レビューします。キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)博士は発達心理学、社会心理学の分野での世界的な権威を持つ心理学者で、今回扱うマインドセットの研究が特に有名です。

本書では、人生の困難な状況や課題に立ち向かうためにはしなやかマインドセットが必要であるといいます。しなやかマインドセットとは成長マインドセットとも言い換えられ、努力と経験を重ねることで自分の能力をいかようにも伸ばし、成長していけることを確信している心構えのことです。対照的なのは硬直マインドセットであり、自らの能力は一定で決まったものであり、優越を示すことに固執し、いつか損なわれてしまうことを恐れている心構えのことです

本書ではこの二つの心構え=マインドセットを対比させながら、いかに私たちがこの心構えによって日常生活や自分の将来の成長が左右されているのかが分析されています。努力することによって自分の人生を変えていける人生を選ぶか、それとも今持っている自分の価値に固執し、見栄や虚勢をはり努力を怠る人生を送るのか、その選択は私たちがしているのです。

◆書誌情報
マインドセット「やればできる! 」の研究
キャロル・S・ドゥエック(著)
今西康子(翻訳)
草思社 2016/1/15 電子版2016/05/18

しなやか・成長マインドセットとは growth mindset

しなやかマインドセット(growth mindset)とは「人間の基本的資質は努力次第で伸ばすことが出来るのだ。」という信念です。この信念を持つ人は、自らの可能性に挑み、失敗を受け入れることで教訓を得て成長していきます。潜在能力が開花するのに時間がかかることを知っているので、すぐに成果が出なくても焦りません。努力する過程が重要であり、自分のベストを尽くし学んで向上することに重きを置いています。持って生まれた環境の差や体質、才能・気質は一人一人異なっている前提を受け入れつつも、努力と経験を重ねることで自分の望み通りに能力を伸ばし、なりたい自分になれるというマインドセットです。努力こそが人を賢くし、有能にすると考えます。

何かを試すのに自信は必ずしも必要ではなく、失敗を成長の機会として捉えます。失敗からも学ぶことができるので、何も試さずに行動しないことが唯一の失敗になります。

硬直マインドセットとは fixed mindset

一方、硬直マインドセット(fixed mindset)とは「自分の能力は石版に刻まれたように固定的で変わらない。」という信念のことです。この信念を持つ人は、自分の優越性を確認することに固執し、他者からの評価や失敗をとても気にします。一度の失敗や低評価が人生全体を規定してしまうと思い込み、失敗=負け組という思考が離れません。生まれつきの才能が全てであり、能力がないことを恐れ、難しい挑戦や課題に取り組まなくなります。自分が常にうまくやれると感じている安全確実なものにしか取り組みません。

人から認められ、自分の計画通りに物事が進むのが成功であり、努力しないで済むのなら努力はしません。むしろ、努力することは自らの能力がないことを証明していることであると考え、努力自体を嫌悪します。自分が特別であることを証明することにこだわり、今自分が持っているもろい自信を守るために、ちやほやしてくれる、ほめてくれる人とだけ付き合うようになります。

硬直マインドセットの人は思い通りにいかず、失敗すると落ち込んで失敗から何かを学ぶ意欲すらも失います。「どうせ〜」や「〜のせい」が口癖で、人生の課題から目をそらし、成長の機会を失うことも多くなります。自分以外のせいにしないと、自分が無価値に思えてしまうのでそれに耐えられないのです。心理学の分野でセルフハンディキャッピングというのがありますが、本番前に部屋の掃除をしたり徹夜やゲームをしたりするなど、あえて本気で取り組まないことで言い訳の余地を残したりします。もし本気で努力して失敗したら救いようがないと捉えてしまうからです。

一度の失敗でまるで自分の人生の全ての側面が否定されたような気分になり、たった一度の失敗で打ちのめされてしまうことが多くなります。そのため硬直マインドセットを持っている人はうつ病や対人関係に問題を抱えるようになります。自分はもうダメだと思い込んで逃げ出し、意欲も成績もガクンと落ちてしまうのは硬直マインドセットのせいであると本書では指摘しています。

//マインドセットの図 本文より引用//

能力を褒めてはいけない。

このマインドセットの違いを端的に示すのが「能力を褒めると知能が下がり、努力を褒めると知能が上がる。」問題です。これは研究で証明されており、部下や子供を褒める際に「あなたは頭が良い」と能力を褒めてしまうとその人は自分を賢く見せようとして失敗を避けるようになり、結果として成績が下がってしまいます。失敗することは能力のなさを露呈するものだからです。一方で努力や過程を褒めることで失敗を恐れず、失敗から学ぶことに意識が向くようになります。その結果成績が向上していくのです。

固定概念・ステレオタイプとマインドセット

本書ではこのマインドセットの違いは固定概念に私たちが影響される度合いも支配していると指摘しています。

「女性は数学が出来ない」とか、(日本では馴染みがないですが)「アフリカ系アメリカ人は知能が低い」と言った固定概念・ステレオタイプも意識するしないに関わらず、大きく人々に影響しています。人種や性別のチェック欄に印を付けただけでも、彼らの心に染みついたステレオタイプが呼び覚まされて試験の成績が下がるという研究結果が紹介されます。「その通りになるのでは」という不安が生じて心が動揺するためです

硬直マインドセットを持っていると、こうした一般通念に引きずられてしまい、レッテルを貼られるのに弱くなると本書では指摘しています。自分はこんなものだ、と諦めてしまうことが多くなります。その結果、自信とやる気が削がれていくことになります。

マインドセットがしなやかであれば一般通念など跳ね返すことができます自分は一生だめだなんて考えず、たとえ今はだめでも、努力すればきっと苦手や欠点を克服できると信じることができます。不利な立場におかれても、そこから吸収できることを吸収して成長の糧にすることができるのです

マインドセットがしなやかであれば、周囲からどう見られていようとも、それをありのままに認めた上で、自信や能力を損なうことなくその偏見に立ち向かっていくことが出来るのだ。

スポーツや芸術分野でも同様

生まれつきの才能や素質を語られがちなスポーツや芸術の分野でもマインドセットで説明できるとします。マイケルジョーダンやベールブルースの例を挙げ、いかに彼らが努力に努力を重ねたのかが例に挙げられています。私たちはアスリートの活躍を天性の才能によるものだと見てしまいがちなのです活躍前の彼らはただの人であり、並外れた努力が彼らをその地位に押し上げたのです

芸術面では「脳の右脳で描け」で有名なベティ・エドワーズの例を出し、芸術的才能も訓練で伸ばしていくことができることが述べられています。

マルコム・グラッドウェル(注:「天才! 成功する人々の法則」で有名なジャーナリスト)が言うように、後天的能力よりも、先天的資質の方が人々から高く評価され、賞賛される傾向にある。私たちの文化が自己努力や自己陶冶をどんなに強調しても、それと同じくらい人々は奥底で天与の資質をあがめていると彼は言う。チャンピオンやアイドルは、生まれながらにして自分とは違うスーパーヒーローなのだと思いたがる。自分とほとんど変わりない人間が、努力を重ねてそうなったのだとは思いたがらない。なぜなのだろう。後者の方がずっと素晴らしいと私は思うのだが。

新しいことを学ぶと、実際に、このような脳内の微小な結合の数が増え、結びつきも強くなります。頭を使って勉強すればするほど、脳細胞が成長するので、以前はすごく難しかったことやできるわけがないと思ったことが(例えば外国語を話したり、数学の問題を解いたりすること)簡単に思えてきます。それは脳の性能がアップしたからなのです。

特にメディアは年少の天才を過度に賞賛している傾向にあると思います。その背後で彼らが何千時間、何万時間も努力している背景があるかもしれないのに、それらを無視して天才少年、天才少女だともてはやします。この理由について、「メディアは分かりやすいヒーロー像を求めているのだ」と別の書籍で読んだ事があることを思い出しました。天才と称される人も自分と同じ人間で泥臭い努力を重ねてきたのであれば、自分自身がいかに努力していないかを直視することになりますから、メディア受けしないのでしょう。

ビジネスの世界では

本書ではマインドセットを使ったビジネス分野での分析もしています。アメリカの大企業の経営者を例に出し、失敗を恐れ自分の保身を図る経営者は赤字に陥り部下を育て多少の赤字で投資家からの信頼を失っても着実に会社を良くしようとする経営者が長期的には会社を成長させ上手くいく話が述べられています。部下の失敗を叱責するのではなく、部下に自信を取り戻させること。重要なのは学歴ではなく、マインドセットだといいます。

つきあいとマインドセット

人付き合いの分野でもマインドセットは影響しています。硬直マインドセットの人は人付き合いが億劫になりやすく、自分を有能であるように見せたいがために、失敗や恥を恐れて人付き合いを避けるようになります。自意識が過剰になり、人間関係の不安が強くなります。一方でしなやかマインドセットを持つ人は、人間関係を維持するには努力が必要であることを理解し、柔軟に対応できます。同じ内気な人でも、硬直マインドセットを持っている人だけが人付き合いに苦労を感じている、という研究が紹介されています。硬直マインドセットの人はなにか自分がヘマをやらかすのではないかと思いこんで、ソーシャルスキルが自分より長けている人との接触を避けるようになるのです。

まとめ

しなやかマインドセットは自分の成長を信じる力
・自分の心の持ち方、信念が大きくその人の成長やモチベーション、心の健康に影響している。
・しなやかマインドセットの根底にあるのは、「人は変われる」という信念。自分の目標とする価値に向かってコツコツ努力するほど素晴らしいものは無い。
・知能の面ではしなやかマインドセットを持っていても、芸術的才能では硬直マインドセットを抱いて諦めてしまっていることもあるが、芸術分野でもしなやかマインドセットで臨むことで成長し、能力を伸ばしていくことが出来る。
秀でた人々というのは、惜しみない努力を続けているからこそ秀でている
・脳は筋肉と同じく使えば使うほど性能がアップする。
・ピアノや楽器演奏でも同じで、いくつになっても練習すれば上達することができる。
・自分と同年代もしくは年下で出来る人がいても、その人は自分よりも努力や鍛錬を継続してきたと考える。嫉妬する時間があったら自分も努力をして追いつこう。
・「自分は特別で、強くて有能なのだと見せたい」心の鎧は一時的には自分を守ってくれるが、将来の成長を阻む壁ともなり得る。
・才能は育むもの。多くのトップアスリートやアーティスト、歴史に名を残している偉人たちは最初は平凡だった。むしろ中には発達障害、学習障害と診断された人も居た。人は訓練や学習の中で才能を開花させていく。
今はまだ出来ないけれど、いずれ出来るようになるという信念・心構え(マインドセット)が学習意力を燃やし、成長へと繋がっていく
・テストの点数や成績はその子の能力レベルを示すものではなく、その生徒の現在のレベルを示しているのであって、将来どこまで伸びるのかを予測するものではない。
・努力することで自分は伸びていける信念が情熱を生み出し、人を前進させる。

総評

満足度は90%。内容はとても素晴らしく、本書は多くの努力して人生を向上させたい人のバイブルにもなるでしょう。努力が苦であれば、なぜ今の努力を苦と思うのかが理解でき、すでに前向きな努力をしている人にとっては今自分のしている努力が決して無駄ではないことを強く認識させてくれる本です。ただ、後半のビジネスの話と人間関係の話がちょっと冗長に感じました。ボリュームは多いのですが、エッセンスはシンプルです。今自分がどんな状況、年代、条件に置かれていたとしても、コツコツと努力することで人生は変えられることを確信できる名著です。誰でもやれば出来るのです

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参考

キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)

 
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