【まとめと要約】集中力に関する洞察を得られる 「大事なことに集中する。」カル・ニューポート ダイヤモンド社

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今回は集中力に関しての本で、カル・ニューポート著の「大事なことに集中する。」を取り上げます。日本語訳が英語の文章をそのまま直訳した印象が強く出ており読みにくく冗長な表現も多い本ですが、巷にある自己啓発本に見られる気の持ち方や精神論ではなく、科学的・心理学的に集中力を考察したなかなか無い本です。いかに気を散らせるものにまみれた現代において一つの物事に集中することが大事かを筆者の体験と、心理学を元に論じています。

書誌情報

「大事なことに集中する。カル・ニューポート」 Kindle版 ダイヤモンド社
著者カル・ニューポート(Cal Newport)は2004年にダートマス大学で学位を、2009年にマサチューセッツ工科大学(MIT)においてコンピュータ・サイエンスでPh.D.を取得。2011年からジョージタウン大学准教授を務めている。
訳者:門田 美鈴 (かどた みすず)
2016年12月8日 プリント版第一刷
2016年12月12日 電子版発行

現代は注意力散漫な時代

現代はネットワークツールが普及し多くの人が一つのことに注意を集中させることができないでいます。SNSやインターネットの台頭により、常にスマフォが手放せずLINEやFacebook、InstagramといったSNSからの通知や日々大量に来るメールなどの情報が四六時中頭から離れられない人も大勢いるでしょう。
この本ではこのような日々のメール対応やネットサーフィン、ながら仕事や決まり切った仕事など、注意力が散漫でもできて、あまり生産的でない活動をシャロー・ワークと分類しました。その反対に高い専門技能と、集中を要する仕事はディープ・ワークと名付け、現代はこのディープ・ワークの時間が必要であると論じていきます。

シャロー・ワーク:知的思考を必要としない補助的な仕事、注意散漫な状態でなされる作業。価値が低く、反復されるもの。
ディープ・ワーク:集中を必要とする仕事。創造的で価値を生む仕事。

注意散漫な時と、深く一つの対象にのめりこんでいる時の二つの状態があることが分かればOKです。

後者のディープワーク、深く一つの対象にのめり込んでいる状態は心理学者チクセント・ミハイが提唱したフロー状態というものに近く、本書でもフロー状態について言及されています。価値を生み出し社会に変革をもたらすような大きな創造はこのディープワークが必要であり、現代では多くの人々がシャロー・ワークに気をそわされて、ディープ・ワークの時間が減っている事態をこの本は問題としています。

「あなたが最高の生産性を発揮するには、長期間、気を散らすことなく、一つの仕事に全面的に集中する必要がある。」

まさにこの一文が本書の命題です。高めようとしているスキル対象にしっかりと集中する。注意力を一点に集中することがどれだけ大事なことで、生産性に寄与し、かつ現代において難しいかが語られます。

また、人間の脳はマルチタスクに向いておらず、科学的にもマルチタスクは生産性を落とすことが証明されているとのこと。

二〇〇九年の論文「なぜ私の仕事はそれほど困難なのか」で、ルロワは“注意残余(attention residue)”と呼ぶモノの影響を紹介している。タスクAからタスクBに移るとき、人の集中力はすぐにはついていかない。人はタスクBに移っても最初のタスクAについて考え続けるのだ。また、タスクAの仕事が際限なく、集中度が低いほど、この“残余”の密度は濃くなる。注意力はしばらく分散したままとなる。

人の集中力はすぐには戻らず、いったん作業を中断してしまうと元の集中力を取り戻すのに更なるエネルギーが必要なのです

例えば、あるタスクの最中に着信が届き、SNSやメールを一瞬チェックしただけでも、元のタスクに戻ったときに奪われた集中力を取り戻すのにかなりの時間が必要なのです。(元の集中力を取り戻すのに20分以上かかるとの研究も。)私はこれを読んで、勉強の合間の少しの休憩のつもりが長時間の休憩になってしまい、勉強を再開してもなかなか身が入らないことを実体験として思い出しました。難しい知的作業ほど、まとめて中断することなく続けることが必要なのです。たとえ短時間でも仕事を中断するとかなりの割合で仕事の達成に遅れが生じてしまうのですね。

成果を最大にする働き方=費やした時間x集中度

気を散らさないことによる生産性の向上は、気を散らすものにまみれた現代において重要な能力なのです。

ノーベル賞物理学者のリチャード・ファインマンは真に物理学の研究に必要なのは十分な集中と途切れることのない時間だとして、管理業務を断固拒否した。プロとしてのキャリアで最も重要な、「本当に優れた物理学の研究」が十分にできなくなることがわかっていたからだ。重要なものが明快であれば、拒否するものが明快になる。

これはコアバリューの話にもつながります。自分の大事にしたい価値が明確であれば不要な仕事を切り捨て、本当に大事な仕事だけを選び、そこに注力できるのです。

生産性の代用としての多忙

本書では「忙しいことが生産性が高いことへの埋め合わせとなっている」ことを指摘しています。自分自身を“多忙”とすることで、周りに自分は仕事をしているのだとの認識を与えた上に、自分自身に対しても自分は仕事をしているのだと納得させやすくなるからです。自分を“多忙である”と見せることはディープワークに取り組むことよりもはるかに容易です。だから人は集中力を必要とする遙かに価値のある高度な仕事よりも、忙しい状態を容易に与えてくれる簡単な仕事を選んでしまいがちになります。

「メールや会議を絶えずしていたら、多忙に見えるので、本来重要な生産性の代用として多忙を利用していたら、あなた自身にも、他人にもあなたはうまく仕事をこなしていると確信させてしまうだろう。」
「「見るからに多忙でなければ、生産性が低いと考えます」この2013年にヤフーの新CEO、マリッサ・メイヤーの言葉は客観的に見れば時代遅れである。」

生産性について歴史的な観点から言うと工業時代の方が数字で結果が見えていたので分かりやすいと言えます。現代は発想やアイデアの時代で生産性が必ずしも数字で測られるものではないため、忙しそうに見えることが生産性が高いという見せかけの指標となっていることを本書では指摘しています。

「忙しいことが生産性への代用となっている」、この指摘を本書で読んだとき、私は思わずハッとしてしまいました。大事な要件の締め切り前に部屋の片付けをしたりメールチェックをしてしまった経験がある人も多いと思いますが、これらは現実逃避で本当に大事な取り組むべき仕事から逃げているんですね。これはセルフ・ハンディキャッピングの話ともつながりますが、セルフハンディキャッピングについては別の記事でまとめます。

集中して取り組むための戦略。

では集中して仕事に取り組む環境を手に入れるために何が出来るでしょうか。本書ではいくつか集中して取り組むためのヒントを提示しています。

・無意識に行ってしまうシャローワークを最小限にとどめ、ディープワークを最大限にすること。
・仕事を一定の習慣にし、取りかかる時と場所を決めて“リズム”を作ること。
・事前に何をするかを決めておくことで、意思決定の手間を省くこと。

まとめると「事前に何をするかを決めておいた上で、毎日の生活リズムの中にディープワークを位置づけ、歯磨きやお風呂のように習慣化しましょう」と本書では述べています。まぁ、この習慣化が難しいんですけどね。何をするかはコアバリューを決めれば出来ると思います。

人は意思決定にかなりの時間を消費しがちなので、事前にすることを決めるのは重要です。あれをしたら次なにをしようか、という手間が心に隙を生むんですよね。

着実な日課でディープワークを支えることによって、年間のディープ・ワークの時間はより多くなるだろう。

他にもディープワークを支える方法として、

・美味しいコーヒーで始める。
・軽い運動を組み込む。
・エネルギーを保つための食べ物を十分に備えておく。
・事前に仕事の資料を整理しておく、部屋を片付けておく。
・締め切りを設定して集中力を発揮する。
・環境を変えてどこかに“缶詰め”になって集中する。

が紹介されています。

休息することの重要性と注意力を回復する方法

最後に休息の重要性と注意力を回復する方法についての話です。本書によれば適度な休息は生産性を上げるためにも必須とのこと。また、一日の人が発揮できる注意力には限界があり、それらはインターネットやテレビなどの気をそらすもの(シャローワーク)によって細切れにされることでどんどんすり減っていくことが指摘されています。その注意力枯渇状態からどう回復すればいいのでしょうか。

余暇は身体にとってのビタミンと同じように頭脳にとって不可欠なものであり、それを奪われると精神的な苦痛を被ります。皮肉なことに、仕事を完遂させるのに休息は必要なのです。休むことは悪では無いのです。

注意力が必要な価値ある仕事を続けていくために、定期的に頭脳を解放して自由にさせてあげるのが必要とのこと。目標は高く持つがきちんと休息をとる怠惰な野心家になることを本書ではすすめています。

休憩時間が洞察力を高める。意思決定は無意識の心に解決を委ねたほうがよい場合がある。意識的頭脳に休息時間を与えることで、無意識の心がきわめて複雑な課題をも対処できるようになる。

失われた注意力を回復させるための方法は、自然の中で過ごすことが効果的とのことです。

この自然の中での注意力の話はミシガン大学の心理学者、レイチェル・カプランとスティーブン・カプランによって提唱された注意力の疲労という概念に基づいています。一日の中で注意を集中するためのエネルギー源は有限であるという前提のもと、注意力の回復のために人が本質的に魅了される刺激が大事であり、自然の中の散歩が一番効果があることを突き止めました。人間の動物本来の自然的環境下では注意力を働かせる必要は無く、心は興味深い刺激で満たされ、積極的に何かに注意を向ける必要がなくなるため、注意力・集中力を回復することができるのです。

ちょっとわかりにくいですが、注意力というのは一つの対象に集中している状態で、その注意力を回復させるには、注意していない状態を意識的に取る必要があるのです。そこで人間は自然の中だと意識的に何か一つの対象に集中できなくなるので、リラックスして脳の神経を休めることができるから回復できますよ、と言っています。

だいたい50分ほど自然の中を散策すればだいぶ回復できるそうです。これを応用すれば、自然や壮大な景色が収められた写真集をボーっと眺めることでも同じ効果が期待できそうですね。

最後にシャットダウンの儀式です。これは自分自身に対して休んでよいという合図を出すことです。

心理学ではツァイガルニック効果(ブルーマ・ツァイガルニック)というものがあり、未完了の課題は私たちの注意を支配する可能性があるのです。これは途中で中断した物事に私たちは引きずられてしまう傾向があることを示します。

最終回を見ていないアニメがずっと記憶に残りやすいのも、掲示板やSNSの書き込みや会話で返信が気になるのも、明確な終わりを脳が認識していないからです。こうなると、脳の中ではまだ作業が続いているという神経回路が働くため、消耗していきます。これを防ぐためにはしっかりとした完了・終わりの合図を自分で示してあげることです。こうすることで、ツァイガルニック効果を抑えることができ、切り替え上手になり次のタスク(もしくは休息)ができます。自分で日記を書くのでもいいし、行動ノートをつけるのでもよくて、今日の分はこれで終わり!という合図を自分に示してあげることで、終わったことをくよくよ考えたり、引きずられずに次の課題へと立ち向かうことができるのです。

「気を散らされる数多くのものを捨て、注意を集中させる少数のものに取り組めば、物事を変えることができるのである。」
「あなたの時間と注意を盗もうとするものからその支配権を取り戻さねばならない。」

総評

お勧め度(10段階) ☆☆☆☆☆ ☆☆☆
内容はとても面白いのですが、何より情報量が多いです。英訳本の特性か、くどくて冗長な表現がチラホラ目につき同じことを遠回しに何度も説明されたりします。しかしながら本書ならではの「多忙が生産性の代用」となっていることへの指摘はとても大きな気づきでした。集中して一つの物事に取り組むことの大切さを強く実感出来る本です。普段私たちがいかに多くの時間を無為に使ってしまい、大事な仕事に身が入らないのか。そして、自分が何に集中でき、余計な物事に集中力や作業を中断されていないかを改めて見つめ直すことができた読書でした。

 
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